デジタルデバイスを利用したリモートワーク実施前後における社員の健康調査

株式会社ヒューマノーム研究所(以下「当社」)では、新型コロナウイルスの流行以降、従業員に対しリモートワークへの移行を推奨し、環境の準備を進めておりましたが、3月25日(水)の東京都知事による発表を受け、3月26日(木)より一斉に在宅勤務(フルリモートワーク)への切り替えを行いました。お取引先や関係者の皆様にはご不便・ご迷惑をおかけしておりますが、ご理解いただき誠にありがとうございます。

働き方に関し、急速な社会的変革が求められる現在、働き方が社員の健康がどのように変化するかを調査し、健康に留意する方法を考えることは、「人とは何か」をテーマに掲げ、研究活動を進める当社の使命と考えます。

当社は、以前より福利厚生の一環として希望者を対象に活動量計(Fitbit Inspire HR)を貸与し、日頃の健康意識を高め、健康増進に役立てております。今回は社員の同意の下、活動量計から取得したデータを用いて、リモートワーク環境下における活動量の変化を調査しましたので、公表させていただきます。

前提条件

今回は、以下の期間のうち、土日祝祭日を除いた当社営業日を対象として調査しました。また、図中で使用した社員番号(Person)は図1〜3まで共通対応しています。

  • フルリモートワーク実施前:2月25日〜3月25日(21日間)
  • フルリモートワーク実施後:3月26日〜4月6日(8日間)

歩数の変化

図1に、社員5名のフルリモートワーク前(Before WFH)とフルリモートワーク後(WFH)の平均歩数、ならびにエラーバーで信頼区間を示します。社員によって、日頃の歩数はまちまちですが、フルリモートワーク実施後、一部の社員には大きく歩数の減少が見られます。当社は、情報系研究者とエンジニア、および、企画運営・総務を実施する職種が中心のため、お取引先や関係者様との打ち合わせを除くとデスクワークが中心となります。そのため、社員の多くは、ランニングやスポーツジムの利用等、自発的な運動を行わない限り、行き帰りの通勤が活動の多くを占めており、結果としてフルリモートワーク後は、著しく歩かなくなっている様子が見られます。

図1. フルリモートワーク前後の平均歩数変化

次に、上記のデータ取得時間帯をオフィスアワー(10時半から18時半)に絞ることにより、通勤時を除いた歩数を調査しました(図2)。この図から、フルリモートワークの環境下においては、ビル間や会議室間などの移動機会が減少するため、オフィスアワーの移動も減ることが分かります。また、フルリモートワーク前後で大きな変動の見られない社員は、フルリモートワーク後も客先での会議のため移動をしていたり、意識的に買い出し等で遠くまで散歩している社員でした。

図2. フルリモートワーク前後のオフィスアワー(10時半から18時半)の平均歩数変化

心拍の変化

当社は、ビジネスチャットツール:Slackによるコミュニケーション、および情報共有ツール:esa・ビジネスグループウェア:G-suiteによる社内情報の蓄積を実施し、今いる場所を問わず全ての情報にアクセスできる環境づくりを進めております。このため、フルリモートワーク実施後も働き方自体に大きな変化はありません。しかし、直接対面のコミュニケーションの不足が心理的な緊張を産むのではないかと考え、仕事中の社員の安静時心拍数の変化を調査しました(図3)。

図3はバイオリンプロットと呼ばれる図で、横にしたヒストグラムを重ねたものとなります。緑がフルリモートワーク前、紫がフルリモートワーク後のデータとなっており、この図は1分ごとの心拍数の頻度分布を表しています。リモートワーク実施前と実施後で、形状やピーク位置が大きく変わらないことから、当社社員の心拍数はフルリモートワーク前後で変化なく、また、リモートワーク時も継続した緊張状態はないことが分かります。むしろ、一部の社員は、リモートワーク時の方が心拍数が落ち着いており、リラックスした状態で仕事に徹している姿が見えます。

図3. 社員の仕事中における心拍数のバイオリンプロット

まとめと提言

新型コロナウイルスの感染拡大阻止に向け、多くの戸惑いとともにフルリモートワークを実施している会社様も多いと思います。当社も皆様と同じく、来たるべき東京オリンピック開催期間に仕事が滞りなくできるよう、順を追ってリモートワーク環境を整えてはいたものの、現実には見切り発車でフルリモートワークがスタートする事態となり、思い悩むことが多くありました。その一つが、仕事環境が変わることによる、社員の健康管理です。

今回の社員の活動のまとめから、特段運動を意識せずに日常生活をおくった場合、通勤によって賄われていた運動ができなくなるだけでなく、一般家庭内はオフィスに比べると狭いことが多く、動きが制限されている様子が見られました。不要不急の外出が制限されている中ではありますが、厚労省・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等でも指摘されている通り、健康維持のため、感染リスクの十分低い環境での外出機会を設ける必要性が認められました。また、社員への聞き取り調査では、家事などの生活活動を積極的に実施したり、ラジオ体操任天堂・リングフィットアドベンチャーなどを活用し、意識的に身体を動かすことで、体調維持を心がけている様子も垣間見られました。

また、フルリモートワークによって、今までと異なるコミュニケーションを求められるため、仕事上の不安感などが増大する可能性を危惧していましたが、当社の社員の心拍数からは、通常勤務と同様の状態が保たれていることが見えました。様々なWebツールを通じた密なコミュニケーションに留意することで、フルリモートワーク環境下でも効率よく業務を進められることがわかり、新たな発見となりました。

一日も早い新型コロナウイルス感染の収束と、ポスト・コロナ社会で各社の社員様が力を発揮できるような健康維持のために、弊社の健康調査結果をご利用いただければ幸いです。