植物が生育環境に適応するために種分化を起こし、遺伝子発現パターンの多様性を高めていることを示唆する共著論文を発表しました
代表取締役社長・瀬々 潤が共著の論文「Fine-scale empirical data on niche divergence and homeolog expression patterns in an allopolyploid and its diploid progenitor species」が、2020年10月19日公開の国際学術雑誌「New Phytologist」オンライン版に掲載されました。本研究は、スイス・チューリッヒ大学 秋山玲子 研究員、清水 健太郎 教授らの研究グループとの共同研究成果となります。
野生の植物が新しい生育環境に適応していく方法のひとつに、異なる種が交配することでハイブリッドを作る「異質倍数化」があります。今回の研究では Cardamine(タネツケバナ)属で異質倍数化した種とその親種を対象に、自然環境(in natura)における生育環境計測と遺伝子発現について調査しました。あわせて、親種の性質と異質倍数化された種の性質を比較することで、適応環境がどのように拡大していくかについての計測も実施しました。本件は、in natura における異質倍数体計測の先駆けとなる研究です。
タネツケバナ属は異質倍数化が多数見られる植物の一種です。これまで、親種から受け継いだ性質のいいとこ取りをする異質倍数化により、多様な環境での生育を可能としていると考えられてきました。その実態と分子メカニズムを解析するため、本研究ではスイスアルプスに生息する、Cardamine属(タネツケバナ属)の3種 Cardamine amara、Cardamine hirsuta、Cardamine flexuosa について調査を実施しました。タネツケバナ属の四倍体である C. flexosa は、二倍体であるC. amara、C. hirsuta が異質倍数化した種です。本研究では、3種それぞれの生育地の土壌の性質・土質の変化・日照時間について、2シーズンにわたって調査しました。さらにそれぞれの種に対してRNAシーケシングを実施し、遺伝子やホメオログ(異質倍数体が持つ異なる親種に由来する重複した遺伝子)の発現パターンについて解析しました。
自然環境下では、四倍体であるC. flexosa は、C. amara, C. hirsutaが生育する中間域に生育しています。今回の計測により、異質倍数化した種は親種よりも湿潤・乾燥した環境でも生息できるなど、より広域の環境に適応できることが示されました。加えて、季節によってホメオログの発現比率を変化させることで、その時々の生育環境に適応している様子が計測されました。
これらの知見は、生育環境の変化に適応するために、微細なスケールで種分化が起こることを示しています。また、異質倍数化による種分化で、遺伝子発現パターンの多様性を高めることが、生育域を拡大できている要因であると示唆されます。
発表論文
Reiko Akiyama, Jianqiang Sun, Masaomi Hatakeyama, Heidi E.L. Lischer, Roman V. Briskine, Angela Hay, Xiangchao Gan, Miltos Tsiantis, Hiroshi Kudoh, Masahiro M. Kanaoka, Jun Sese, Kentaro K. Shimizu, Rie Shimizu-Inatsugi; Fine-scale empirical data on niche divergence and homeolog expression patterns in an allopolyploid and its diploid progenitor species, New Phytologist, 22 November 2020, NPH17101, https://doi.org/10.1111/nph.17101
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