当社代表取締役の瀬々が携わった共著論文「Convergence and divergence of DNA methylation and gene expression patterns in neopolyploid Arabidopsis kamchatica」が、2026年6月30日公開の国際学術雑誌「Nature Communications」に掲載されました。
この論文は、横浜市立大学木原生物学研究所 清水健太郎 客員教授(チューリッヒ大学・教授兼任)およびチューリッヒ大学 清水(稲継)理恵グループリーダーとの共同成果となります。
本研究では、複数世代・複数の環境条件下において、植物の倍数化(ゲノムの倍加)が起きた直後に生じるDNAメチル化と遺伝子発現の変化を調査しました。その結果、倍数化した個体のDNAメチル化パターンは世代を経るにつれて天然の四倍体に近づいていく一方、遺伝子発現パターンは環境条件によって分岐することを明らかにしました。
研究の背景と目的
植物の世界では、異なる種同士が交配し、両方の親のゲノム(全遺伝情報)を受け継ぐ「異質倍数体」という新しい種が生まれることがあります。コムギやコーヒーなど、身近な作物にも異質倍数体は存在します。
倍数化してできた種には環境の変化に適応しやすくなるなどの利点があることが分かっていますが、種が誕生した直後の短い期間に、DNAメチル化(遺伝子の働きをオン・オフする目印のようなしくみ)がどのように変化して安定していくのかは、これまで十分に分かっていませんでした。

Arabidopsis lyrata(左)とArabidopsis halleri(中央)の交雑によりArabidopsis kamchatica(右)が生じる様子を示す花の写真
本研究では、日本にも自生するミヤマハタザオ(Arabidopsis kamchatica)を対象として調査を行いました。ミヤマハタザオは、ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)とArabidopsis lyrataという2つの種が自然界で交配して生まれた四倍体(倍数体)植物です。本研究では、この2つの祖先種を人工的に交配させて「できたばかりの合成四倍体」をつくり、これを「すでに自然界で定着している天然の四倍体(ミヤマハタザオ)」と比較しました。さらに異なる環境条件で複数世代にわたって育て、DNAメチル化と遺伝子発現のパターンがどのように変化するかを詳しく調べました。
研究の内容・成果
今回は、祖先種2種のゲノムを高精度に解読したうえで、人工的に作出した合成四倍体(4世代分)と天然の四倍体について、DNAメチル化と遺伝子発現のパターンを比較しました。その結果、倍数化した直後の世代で最も大きな変化が起こり、その後は世代を重ねるごとに「環境に応じて異なる方向に変化していく側面」と「天然の四倍体のパターンに近づいていく側面」が同時に見られることが分かりました。

祖先種2種、合成四倍体、天然の四倍体2系統(ALK・TKS)について、全染色体のDNAメチル化レベルを示した図。温和な条件(左)とストレス条件(右)、CG・CHG・CHHという3つのメチル化の型(上から順)ごとに色分けして示している。
- 世代による変化:倍数化が起きた直後の世代で最も大きなメチル化変化が起こり、その後の世代では変化が小さくなる
- 環境条件による違い(発散):異なる環境条件(温和な条件・ストレス条件)で育てた個体群は、世代を経るにつれて発現パターンが分岐する
- 天然の倍数体への収束:一方でメチル化パターン自体は、世代を経るごとに天然の四倍体のパターンに近づいていく(収束していく)
今後の展望
今後、他の植物種や自然条件下での検証、より多くの世代・複数系統での再現性の確認を進めることで、倍数化がどのように定着し新たな種として確立されていくかの理解が深まることが期待されます。当社は今後も、生命科学分野におけるデータ解析技術の研究開発を通じて、科学の発展と社会課題の解決に貢献してまいります。
論文情報
雑誌名
Nature Communications
タイトル
Convergence and divergence of DNA methylation and gene expression patterns in neopolyploid Arabidopsis kamchatica
著者
Stefan Milosavljevic, Dario Copetti, Kenji Yip Tong, Aki Morishima, Jun Sese, Mark D. Robinson, Kentaro K. Shimizu, Rie
Shimizu-Inatsugi
DOI
10.1038/s41467-026-75042-4
掲載日
2026年6月30日
URL
https://www.nature.com/articles/s41467-026-75042-4
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